「いったいこれはなんだっ?」て思いませんか?
これはベルリンの壁崩壊20周年記念でおこなわれた祭典の模様なんです。横浜のあたりの方にはもう有名なのかもしれませんが、横浜開国博ででっかい蜘蛛が登場しましたよね。あの仕組みを作った人たちがこのでっかい操り人形も作ったのです。いろいろと調べていったら、もとはル・アーブルというフランスの街で始まったイベントなんですね。横浜開国博では「ラ・マシン」と紹介されていましたが、このイベント全体の演出は「ロワイヤル ド リュクス」というパフォーマンス集団がやっていました。そこで彼らがル・アーブルでどんなことをしたのか知りたくてDVDを入手しました。
観てとても感動しました。大きな操り人形たちは簡単な動作しかしないのですが、そこで見物しているたくさんの人たちが物語を作っていくのです。しかも、ロワイヤル ド リュクスの人たちは、そこをよく心得ていて、物語が生まれていくような準備をたくさんしていたのです。
1993年9月27日、ル・アーブルの朝刊に「巨人が空から降ってきた」と意味不明の記事が掲載されました。人々は通勤通学のために通りに出ると、見たこともないような大きなサンダルが街灯にぶらさがっています。そして広場には、ガリバー旅行記のガリバーのように、杭と綱とで固定されたとても大きな木製人形が横たわっていたのです。口からは湯気を吐いていました。
街中には見たことのない車が走りました。赤いその車のボンネットには、はげた男の首が突き出し、その首が何が起きたのかを大声で語ってまわるのです。街の人々はその大声に驚き、その異様な車を見ておののき、普通ではない何かが始まったことを知るのです。
しばらくするとリリパットの役人のような衣装を着た人たちが巨人を起こして街中を行進していくのです。
その様を見る人々の表情がとてもいい。中には泣き出しそうな大人もいます。
このイベントははじめたった一回だけのためにおこなわれたようですが、一度やるとその街の人たちはもう一度あの巨人に会いたいと騒ぎだし、翌年もおこない。さらに何年か毎に継続され、次第に物語が広がり、ついには機械仕掛けのキリンや象までもが登場するようになります。その話の延長が、今回のベルリンの壁崩壊の祭典につながっているのです。概要は英語ですがこちらにあります。公式サイトはこちらです。
大きな人形が演じる物語自体はとてもシンプルです。しかし、大きな人形が街中を動き、簡単な動作を一つすることで人々はどよめき、感嘆し、自分の人生のなかで起きたとても大きな出来事として記憶に留めていくのです。
このDVDを見て、バリ島のオゴオゴ、そして青森のねぶたのことを思い出しました。なぜあの大きなはりぼてに興味があったのか。それを理解させられた気がしました。
巨人が人々を見下ろす度に、みんな「私のことを見た」と叫びます。それがどんな感情なのか、僕にはわかった気がしました。それは十数年前にケニアで象に見下ろされたときの感覚を思い出させてくれました。エレナという名の付いたその象に見下ろされたとき、その象に受け入れてもらったという感覚がありました。その感覚は言葉にならないほど大きな喜びのようなものでした。なにしろ相手は大きな象です。相手がその気になれば僕などすぐに踏みつぶされてしまうでしょう。その象が、小さな僕という存在を許してくれたのです。そのあり得ない感覚が、オゴオゴやねぶたを見る度に、きっと僕の心の奥底に蘇っていたのでしょう。ずっとその感情がオゴオゴやねぶたにつながっているとは思っていませんでした。しかし、この巨人のDVDを見て、そのことをやっと理解したのです。
DVDが面白いのはもちろんですが、あの巨人が歩く現場に行ってみたい。そのとき実際には何を感じるのか、楽しみです。