鈴村真貴子さんのピアノリサイタルを銀座王子ホールで聞いてきた。プーランクの曲ばかりを演奏した。プーランクという作曲家の名前を聞いたことはあったが、実際に曲を聴くのはこれがはじめてだった。2013年1月30日は、ちょうどプーランクの没後50年目の命日にあたっていた。プーランクの没年月日は1963年1月30日。鈴村さんにとってはその日でなければならないリサイタルだったのだ。東京芸術大学大学院の博士号を「F・プーランクのピアノ作品演奏法」の論文とその演奏で取得している。ちなみに東京芸術大学大学院の修士課程では、ピアノ専攻主席修了者に与えられるクロイツァー賞を受賞している。
一曲目に弾いた『3つの常動曲』でその魅力に引き込まれた。凡庸なメロディーで始まるかと思いきや、そのメロディーが崩れていく。崩れては戻り、また崩れては戻り。その安定した不安定さが魅力だ。鈴村さんの演奏も微妙に揺れる。強弱が揺れ、テンポが揺れ、左右の均衡が揺れる。
他の曲も安定した不安定さに引き込まれた。凡百のメロディーはしばらく聴くと次の音が予想できる。だけどプーランクはそれをことごとく裏切ってくれる。その心地よさ。鈴村さんの演奏も蠱惑的に進められる。きっときちっと弾けるだろうに、微妙にテンポがずれてきたり、音の強弱の付け方が不安定だったり。基礎のできてない人がこんな演奏をしたらばらばらになってしまうだろうキワを攻めてくる。だからまるでピアノの音が色彩を帯びて舞台に振りまかれているようだった。
僕はプーランクのことをまったく知らないからわからなかったけど、もしかしたら舞台にその魂が降りてきていたのかも。