中国に如何に向き合うか〜極東アジア地政学の中の日本

国家ビジョン研究会のシンポジウム『中国に如何に向き合うか』に参加してきました。とても刺激的な話が聞けたのでここにご報告します。いつものように会場で取ったメモを頼りに再現しますのでニュアンスなど、細かい部分で間違いがあるかもしれませんが、ご寛恕のほどよろしくお願いします。

基調講演は拓殖大学総長兼学長の渡辺利男氏が「極東アジア地政学の中の日本」というタイトルでお話しになりました。

極東アジア地政学の中の日本

中国は最近とてもシビアな膨張政策を取り始めた。それに対して理不尽だという人がときどきいますが、中国に対して理不尽と言ってしまっては私たちの負けになります。もしそう言ってしまうと戦略的に何もなし得なくなるからです。中国に対してはこう見るのがいいと思います。「遅れてきた帝国主義国家」日本の古い自画像を見ているような気がします。かつてはどこの国も帝国主義国家でした。それを中国はいまやっているのです。だから最近の中国の覇権獲得の動きは当然だと思うべきなのです。

19世紀のドイツの膨張主義はすごかった。これが二度の世界大戦の遠因となる。日本は日露戦争で勝ち、韓国併合、満州国建国とたどり、アメリカも西部に拡大しながらプエルトリコ、キューバ、パナマ、ハワイ、グアムと広がり、大陸進出を狙った。当時は自国の独立を守るためには進出が必要だったのです。

さて中国はというと、彼らは王朝史を持っている。覇権主義が出てくるのは当然と考えていいでしょう。この膨張主義に対立するためには反膨張政策が必要です。国内では宥和政策ばかり期待されるようですが、それではきっとうまくいかなくなるのは歴史を顧みれば自ずとわかります。ヒットラーがチェコスロバキアに侵攻しようとしたとき、ミュンヘン会談がおこなわれました。そこで宥和政策がとられたのですが、それではヒットラーを止めることができませんでした。後年批判の的となります。

同様に、今回2011年9月の尖閣諸島での事件。残念ながら日本の政権中枢は何の対策も取らなかった。船長をそのまま帰してしまった。そのことを発端に挑発行為が拡大している。このような政府であったことを認識し、改めるべきところを改めなければならない。

中国は自らを、中国統一を果たした大清帝国の後継であると考えている。習近平は様々な談話で「中華民族の偉大なる復興」というフレーズを使う。それはアヘン戦争以来受けてきた屈辱を晴らすためにいまの拡大があるという、かなり調子の高いものである。アヘン戦争から日中戦争終結までの100年間が屈辱の歴史だと訴えている。それはガルトゥングが論じたCMTコンプレックスを用いて考えると理解しやすい。つまり選民意識(Chosenness)、神話(Myth)、トラウマ(Trauma)の複合心理である。「大清帝国」の臣民として強い選民意識を持ち、一方でヨーロッパや日本の帝国主義によって屈辱的な体験をしたことをトラウマとしている。だからそれを克服しようと躍起になっている。

中華人民共和国は建国後もしばらくは貧困、飢餓からなかなか抜け出せなかった。それが1970年代から成長に転じ、WTOに加盟、北京オリンピック、上海万博を経て世界第二位の大国となった。中国の人民にとってこれほど痛快なことはないだろう。貧困に打ちひしがれたからこそ知識人の胸に宿り始めたレトリック「中華民族の偉大なる復興」が大きな意味を持つようになる。

復興であるから、それは過去への回帰願望が潜んでいる。それこそが大清帝国への道だ。清は最大の王朝。明の三倍、乾隆帝の頃にはモンゴル、チベット、ウィグルを組み込んで広大で強大な帝国になっていた。それを列強諸国が踏みにじった。その当時の非道に対して正義を回復しようとしている。だから強く出てくるのは当たり前なのです。この情念は民族感情となって膨れ上がっている。だから尖閣諸島の領有権は決して取り下げないでしょう。過去の歴史の汚名挽回なのですから。

1992年に中国は領海法を発布し、尖閣諸島、西沙諸島、南沙諸島を自国の領土であると規定した。それに基づき去年の第18回党大会で胡錦濤が「国家海洋を取りもどす」と宣言した。つまり尖閣諸島を取りもどすのは当然でしょうと言っていることになる。

さて、では中国は尖閣諸島を取りもどすために事を構えるかですが、わたしはそう簡単には駒を進めないだろうと思う。なぜなら、国内にたくさんの問題と矛盾を抱えているから。もし舵取りを少し間違えると取り返しのつかないことになる。果たして戦争をおこなうだけのエネルギーを注げるのか? 難しいと思う。だから、武力行使せざるを得ないギリギリのところを攻めてきて、日本が自滅か屈服するまで継続するだろう。そのスパンがとても長いものになると思う。だから日本は毅然とした抑止をしていかない限り、ジリジリと追いつめられていくしかない。

だから、日本は中国を理不尽と考え、日本の常識で中国を解釈するのではなく、冷静に現状を見据えて行動すべきである。

以上が渡辺利男氏の基調講演でした。

次にパネルディスカッションになったのですが、その冒頭にパネラーのみなさんが短いプレゼンテーションをおこないました。それらに関しては次のエントリーで書きます。

 続き→ 『中国に如何に向き合うか〜パネリストプレゼン』

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