ひさしぶりにきれいな夕焼けを見た。場所は宇多津海浜公園。宇多津町は香川県にあり、本州から四国へと瀬戸大橋を渡ると宇多津町に着く。宇多津海浜公園内にはいくつかの施設がある。僕が一番興味を持ったのは復元塩田だ。このあたり一帯はかつて入浜式塩田だった。近代化が進み、製塩がイオン交換樹脂膜式になることで昭和47年、宇多津町の塩田・製塩事業は終わりを告げた。
宇多津町には一泊二日だったが、1日目の夜と2日目の午前中が自由にできたので、西川りゅうじんさんの話を聞いたあと、自転車を借りてあちこち走り回ってみた。1日目の夕方にはまず冒頭に書いた宇多津海浜公園に行った。ここにはうたづ海ホタルという施設がある。道の駅なのだそうだが、商品はあまり多くない。カフェが併設されていて、そこからの眺めがいい。目の前に瀬戸内海の島々が見える。遠くには瀬戸大橋が見える。ここでは塩田で作った塩や、その塩で作った米麹などが売られている。塩はこの地域の歴史を知るためのいいきっかけだ。行く前にいろいろとネットで調べた。なにしろ宇多津のことを何も知らなかった。
公園の入口前にはどこかで見たことのあるような教会がそびえ立っていた。日本にある教会としてはあまりにも大きい。近づくと結婚式場だった。
海浜公園からの夕日と夕焼けをしっかりと堪能したあとで、夕飯を食べに行く。
宇多津町のメインストリートはさぬき浜街道だ。この道沿いには全国区の店舗が多数並んでいる。CoCo壱番館、ほっともっと、ユニクロ、ヤマダ電機、マクドナルド、洋服の青山、ほっかほっか亭、魚民など。夕飯時にどこかいい店はないかと走ってみた。しかし、全国区の店舗がずっと並んでいるので自分がどこにいるのか一瞬わからなくなる。目隠しをされてここに連れて来られて「ここは千葉だ」と言われたら信じてしまいそうだ。看板に近づけば「宇多津店」と書かれているので、やっとそれで自分の居所がわかる。この地域独特の食べ物屋さんはないかなと走ってみた。「創菜ダイニング隠れや」という店を見つけたので入ってみた。聞いたことがなかったのでチェーン店ではないだろうと思った。その店でカウンターにいた店員さんといろいろと話した。店員さんは生まれてこの方ずっと宇多津近辺で暮らしてきた人だった。
「このあたり、全国展開のチェーン店ばかりだね。ここは違うでしょう?」
「いえ、この店も広島や高松なんかに支店があります」
「そうなんだ。中国地方や四国が中心なの?」
「はい、まあそうだと思います」
あとで調べるとこのお店は全国チェーンだった。北海道から九州にまである。やさしい店員さんは僕に話を合わせてくれたと言うことだ。
「このあたりの地元の飲み屋さんみたいのはないの?」
「ドンキのほうに行くと前は飲み屋街があって、ソープみたいな歓楽街もあったんですけど、最近は寂れてきましたね。風俗営業はほとんどなくなりました」
「いつぐらいから?」
「そうですねぇ。10年くらい前かな?」
あとで調べるとドンキホーテは隣の駅、丸亀にあった。
翌朝、まずはこのあたりで一番大きな神社、宇夫階神社に行く。この神社の創建は紀元前だと言われている。宇夫志奈大神として祀られていたそうだ。807年に平城天皇の勅命により社殿を造営し、平成19年で遷座1200年を迎えたとのこと。祭神は大己貴命(おおなむちのみこと)で、大国主命のことだ。社殿は昭和51年に伊勢神宮外宮の多賀宮御正殿を移築したものだという。
本殿入り口の脇には伊勢神宮祭主の池田厚子様が参詣なさった碑が建てられていた。
この神社には六時半に着いたのだが、参拝して写真を撮っていると、ぽつりぽつりと地元の人が来て参拝していく。
本殿の裏には大きな岩が祀られていた。巨石(いわさか)は神座として古代から信仰の対象だったそうだ。巨石の前には御膳岩が置かれている。ここに神饌を置いたそうだ。
宇夫階神社あたり一帯が古街と呼ばれている。古い街並みが続き、しっとりと落ち着いた雰囲気がある。昨日の夕方走った海のそばの新しい町とは趣がまったく違う。
宇夫階神社から海浜公園に出て、宇田津ビブレ跡を見に行く。iPhoneでマップを出し、道筋を検索して走っていくと、途中快適な歩道を走ることになった。
木々が植えられ、道がゆるやかに蛇行して気持ちいい。バブルの頃にでも作られたのだろうか? 贅沢な歩道だが、こういうものがあるときっと生活は楽しいだろう。
さぬき浜街道を渡り、しばらく行くと、教会のようなものが見えてきた。しかし、本物の教会とは何かが違う。本物の教会と比べると雰囲気が軽い。ひょっとしてこれも結婚式場?と思いながら近づいてみるとやはり結婚式場だった。とても豪勢な結婚式場だ。昨日の結婚式場から徒歩で多分10分はかからない。門の中には長いリムジンが停まっている。この結婚式場で1日だいたい何組の結婚式が挙げられるのだろう? 東京ではまず経営が成り立たないだろうななどという余計なお世話なことを考え、海辺に出る。
海沿いに走っていくとさらに驚いたのは、ほかにももう一軒大きな結婚式場があることだ。どこも結婚式場としての機能しかもっていないようだ。東京であればホテルやレストランの機能があってしかるべきと思うのだが、こういうのが最近のトレンドなのだろうか? これだけの規模の結婚式場にどこからやってきて式を挙げるのだろう? この規模の経営を成り立たせるとすると、関西あたりからも人を呼ばなければならないのではないか?と余計な心配をしてしまう。
海浜公園入口にある大きな結婚式場の前に長いリムジンが停まっていて、そこに運転手がいたので話しかけてみた。
「大きな結婚式場ですね? 結婚式以外には使われないのですか?」
「そうです」
「長いリムジンですね。写真を撮ってもかまわないですか?」
「どうぞ」
「今日は何組の式があるんですか?」
「六組です」
スケールの大きさに圧倒される。ここで式を挙げるのにいくらくらいかかるのだろう? まったく検討がつかない。
宇多津ビブレ跡に行ってみた。開業は1994年。開業当初は人気の商業施設だったようだが、2007年頃には売り上げが低下し、最盛期である1998年の半分ほどになってしまったそうだ。それで2014年2月28日に閉店した。最盛期を知っている宇多津の人たちにとってはショックだったようだ。いろいろ調べているうちに、同じイオングループが複合型商業施設「イオンタウン」を作ることにしたとKSB瀬戸内海放送のニュースページに表示されている。そのニュースによれば、「6月中旬には北側の立体駐車場と映画館を残して解体工事に着手。核となるスーパーや専門店は今後、商圏を調査して決める方針です。宇多津町の谷川俊博町長は「方針が決まってありがたい。にぎわいを再び取り戻すことを期待している」とコメントしています。」とのことだが、実際に行って見ると、再開発がされる雰囲気はまったくない。建築現場に掲げられる建設業の許可票にも再建のことは書かれておらず、宇多津ビブレ解体工事の看板しかなかった。
このことをネットサーフィンで調べていたとき、もうひとつ気になったことがあった。それは宇多津町町役場で保管されていた、粗大ゴミを出す際に貼るシールの売り上げのうち、200万ほどが紛失したという話だ。
NHK高松で報道された映像はすでに消去され、四国新聞にはこのように書かれている。
http://www.shikoku-np.co.jp/kagawa_news/social/20140118000157
粗大ごみシールの売上金199万円紛失/宇多津町
宇多津町は17日、住民がソファやたんすなどを捨てる際に購入する粗大ごみ収集シール(1枚500円)の売上金約199万円が紛失したと発表した。町は盗まれた可能性が高いとみて、坂出署に被害届を提出し、同署が窃盗の疑いで調べている。紛失したのは、2009年4月から昨年11月までの約5年間の売上金353万9500円のうち、199万490円。昨年11月、金庫内の売上金が増えないことを不審に思った担当職員が調べ、4日前より8万円足りないことが発覚。町が過去の売上伝票や入金実績を調査したところ、199万円不足していることが判明した。
町によると、住民生活課の窓口で販売したシールの売上金は、手提げ金庫に入れ、業務時間外は課内の別の金庫に保管。定期的に出納室に入金していたが、販売枚数と売上金のチェックは行っていなかった。
町は業務に携わった職員13人に聞き取り調査を行ったが、有力な情報は得られていない。金庫の鍵が壊された形跡もないという。
会見した谷川町長は「町への信頼を失墜させた」と陳謝した。
紛失を受け、町長は給料の30%、副町長は10%、教育長は5%を2月から2カ月間自主返納する。町は16日付で、住民生活課の課長と前課長、課長補佐の3人を訓告、係長1人を戒告とした。
もしこのシール代が盗まれたものだとしたら、町長以下、副町長、教育長が自主返納するというのは不自然だ。もし誰かが横領しているのであれば、金庫を開けられる人たちを調べれば済むことで、なんで発覚してから二ヶ月ほどで自主返納に踏み切るのだろう?
自主返納という言葉も変だと思う。誰かが横領したお金を返納したとすると、横領したのは返納した人に思えてしまう。なぜもっと別の言葉を選ばなかったのだろう?
それとも、自主返納した三人がちょっとずつ何かに使っていたということか?
まあ、たった200万ということで、たいした問題にもならないんだろうな。それでいいのかな? 小さな町に起きたたった200万ほどの紛失は気にしなくていいという、寛大な日本の地方行政ってことなのかな?
近くにゴールドタワーというランドマークがあったので寄ってみた。光が反射すると金色に輝く。いったいなんのためのタワーなのかと思って入口に行くと、タワー下の建物にボウリング場やゲームセンターなどがあり、タワーに関しては展望台のことしか書かれていない。営業開始が10時だったので、まだ入れなかった。朝食を食べてから出直すことにした。
ホテルで朝食を食べてチェックアウトを済まし、荷物を預かってもらい、再び歩いてゴールドタワーに行った。途中で四国健康村という温泉施設の脇を通る。そこに大きな観音様が立っていた。足元に「福壽観音」と書かれている。
ゴールドタワーで入場料を払ったとき、スタッフに質問した。
「このビルは、展望台までのあいだ何が入っているのですか?」
「空洞です」
「空洞?」
「エレベーターであがっていくとわかりますよ」
若い男性のスタッフに導かれてエレベーターに乗る。
「展望台までは空洞なんですか?」
「そうですね」
「なんで途中の階を作ってテナントを入れたりしなかったんですかね?」
「さあ?」
エレベーターが上がっていくと窓から空洞の様子が見えた。確かに空洞だ。
最上階とその下の二階分、計三階が展望台となっている。
そこからの景色は確かに素晴らしいが、これを見るためだけにこれだけ高い建物を建てるというのは町全体の経済の循環がうまく行ってないと難しいだろう。この建物だけで採算を取るのは無理だと思う。よほどうまい仕掛けでもない限りは。それがもしあるなら、どんな仕掛けか見たかった。
足元に海浜公園とそのなかにある塩田が見えた。
瀬戸内海も一望できる。それで入場料756円。
僕が上がったときは展望台に誰もいなかった。
ホテルに帰って荷物を受け取り、小林弘幸さんの話を聞きにシンポジウム会場に向かった。